前の記事「古文の敬語が苦手! どうすればいい? ⑴」では、敬語が苦手である原因と、「敬語の種類」についての説明をしました。
この記事では、「主要な敬語」についての説明をします。
1 「主要な敬語」についての知識
敬語について、最初に覚えなければならないのは、「敬語の種類」でした。これを覚えなければ、始まりません。
けれども、「敬語の種類」を覚えるだけでは、点数にはなりません。実際に点数を取るために必要なのは、「主要な敬語」についての知識です。
それでは、「主要な敬語」の一覧を掲げます。
ここでは、元の動詞と、その動詞の尊敬語・謙譲語・丁寧語を挙げます。
ただし、丁寧語があるのは、「あり・をり」と補助動詞だけで、それら以外の動詞は、基本的に尊敬語と謙譲語しかありません。
また、一部の動詞には、尊敬語しかなかったり、謙譲語しかなかったりするものもあります。
○あり・をり
尊敬語 おはす・おはします・いますがり
謙譲語 侍り・候ふ
丁寧語 侍り・候ふ
○言ふ
尊敬語 のたまふ・仰す・のたまはす
謙譲語 申す・聞こゆ・奏す・啓す・聞こえさす
○聞く
尊敬語 聞こす・聞こしめす
謙譲語 承る
○思ふ
尊敬語 思す・思おぼしめす
謙譲語 存ず
○行く・来
尊敬語 おはす・おはします
謙譲語 参る・まかる・詣づ・まかづ
○与ふ・やる
尊敬語 給ふ・給はす・賜る
謙譲語 奉る・参る・参らす
○受く
謙譲語 賜る・承る
○食ふ・飲む
尊敬語 召す・聞こしめす・奉る・参る
○着る
尊敬語 召す・奉る・参る
○寝・い寝
尊敬語 大殿籠もる
○補助動詞
尊敬語 たまふ(四段)・おはす
謙譲語 たてまつる・きこゆ・まゐらす・たまふ(下二段)
丁寧語 はべり・さぶらふ
○助動詞
尊敬語 る・らる・す・さす・しむ
この一覧は、どこを聞かれてもすぐに答えられるように、しっかりと覚えましょう。
こんなに覚えるの? と思った人もいるかもしれませんが、かけ算九九よりは少ない数ですよ。
それに、覚えておくだけで点数が取れる問題もあります。
2 「主要な敬語」を覚えておくだけで解ける問題
次に挙げるのは、2025年の共通テスト本試、古文の問2です。(設問の趣旨を変えない範囲で、表記を変更してあります。)
問2 下線部a~cの敬語の組合わせとして正しいものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
a 読みたまへる御声
b 今はけしうおはせじ
c 人々のまもりきこゆるを
本文の該当箇所のみを抜き出しましたが、この設問は、実は、前後の本文がなくても解けます。
次に選択肢です。こちらは全文を示します。
a 書き手(作者)から山の座主への敬意を示す尊敬語である。
① b 山の座主から右大臣への敬意を示す丁寧語である。
c 人々から大君への敬意を示す尊敬語である。
a 書き手(作者)から山の座主への敬意を示す尊敬語である。
② b 山の座主から大君への敬意を示す尊敬語である。
c 書き手(作者)から大君への敬意を示す謙譲語である。
a 書き手(作者)から山の座主への敬意を示す尊敬語である。
③ b 山の座主から右大臣への敬意を示す丁寧語である。
c 書き手(作者)から大君への敬意を示す謙譲語である。
a 書き手(作者)から山の座主への敬意を示す尊敬語である。
④ b 山の座主から右大臣への敬意を示す丁寧語である。
c 書き手(作者)から大君への敬意を示す謙譲語である。
a 書き手(作者)から山の座主への敬意を示す尊敬語である。
⑤ b 山の座主から大君への敬意を示す尊敬語である。
c 人々から大君への敬意を示す尊敬語である。
この問題で必要なのは、さきほどの「主要な敬語」の一覧のうち、次の部分です。
補助動詞の「たまふ」(四段活用)…尊敬語
補助動詞の「おはす」…尊敬語
補助動詞の「きこゆ」…謙譲語
これを踏まえて、それぞれの下線部を見ましょう。
aは、「読みたまへり」というところにあります。
この「たまへ」は、直前に動詞「読み(読む)」があるので、補助動詞に当たります。
原則として、動詞は、連続させて使うことができないため、「読み(読む)」という動詞の後の「たまふ」は、補助動詞と判断できます。
さて、補助動詞の「たまふ」には、尊敬語と謙譲語があるのですが、四段活用の場合は尊敬語、下二段活用の場合は謙譲語です。
それぞれの活用を確認すると、
たま |は|ひ|ふ|ふ |へ |へ |ハ行四段活用
たま |へ|へ|ふ|ふる|ふれ|へよ|ハ行下二段活用
となります。
「たまへ」という形は、四段活用の已然形と命令形、下二段活用の未然形と連用形に出てきますので、この時点では、この「たまへ」がどちらであるか決まりません。
そこで、少しだけ助動詞の知識を利用します。
「たまへ」の後にある「り」に注目しましょう。この「り」は、存続・完了の助動詞です。
そして、存続・完了の「り」は、サ変か四段活用にしか付かないため、その「り」の付いた「たまへ」は、四段活用と決まります。
つまり、aは、尊敬の補助動詞「たまふ」ということです。
bは、「けしうおはせじ」というところにあります。
「おはせ」は、「おはす」の未然形ですが、「おはす」は、「主要な敬語」の中で、3カ所に登場します。
①「あり・をり」の尊敬語
②「行く・来」の尊敬語
③尊敬の補助動詞
これらは、いずれも尊敬語なので、この時点でbも尊敬語です。
なお、この「おはす」を細かく分析すると、次のようになります。
本文で、「おはせ(おはす)」の前にある「けしう」は、形容詞「けし」の連用形「けしく」がウ音便化したものです。
形容詞「けし」は、「変だ・異様だ」といった状態を表す形容詞で、「けしうはあらず(=それほど悪くはない)」という連語としても使われます。
本文の「けしうおはせじ」は、〈「けし」の状態ではないだろう〉といった内容を表しており、この「おはせ(おはす)」は、③の補助動詞の用法と見られます。
cは、「まもりきこゆる」というところにあります。
「きこゆる(きこゆ)」の前には、動詞「まもり(まもる)」があるので、この「きこゆる(きこゆ)」も、また補助動詞です。
補助動詞の「きこゆ」は、謙譲の用法なので、cは謙譲語です。
以上をまとめると、a尊敬語、b尊敬語、c謙譲語となりますが、この組み合わせの選択肢は、一つしかありません。
それは、②です。
選択肢には、「○○から××への敬意」といった記述がありますが、この設問に限って言えば、そのような選択肢の記述すら読まなくても、正解が②と決まります。
要するに、「たまふ(四段)」「おはす」「きこゆ」が尊敬語か謙譲語か丁寧語かが分かっていれば、それだけで答えが出てしまうのです。
まさにこれは、知識問題といっていいでしょう。
もちろん、すべての敬語問題が、このように、「主要な敬語」の知識だけで解けるわけではありませんが、「主要な敬語」の知識だけで解ける問題が出されているのも事実なのです。
したがって、「主要な敬語」の一覧は、必ず覚えましょう。
3 まとめ
記事をまとめます。
①敬語は知識問題だと認識する。
②「敬語の種類」を覚える。
③「主要な敬語」の一覧を覚える。
これらを覚えるだけで、確実に点数は上がります。
ぜひ頑張って、覚えてください。